膝が痛いとき、スクワットはしていいのか

「膝が痛いので、スクワットはやめたほうがいいですよね」

日吉の体験トレーニングで、実際にうかがった言葉です。このご質問には、はい・いいえのどちらで答えても誠実になりません。膝の痛みには、変形性膝関節症のように動かしたほうがよくなるものと、半月板や靱帯の損傷のようにまず医療機関で診ていただくべきものが混ざっているからです。この記事では、切り分けに使える数字を並べます。痛みのある膝をどう扱うかを決められるのは医師だけです。

扱うのは、運動療法が痛みをどれだけ変えたのかという実測値、スクワットの深さと膝にかかる力の関係、「膝をつま先より前に出してはいけない」という指示の検証、体重と膝にかかる力の関係、そして日本での有病率です。出典は実際に開いて確認できた研究だけを引き、数値が確認できなかった論点はそう書きます。結果が割れていれば、割れたままお見せします。

まず、日本の数字を見ます

吉村典子先生たちが進めるROAD studyは、日本の地域住民を対象にした大規模コホート研究です。2009年にJournal of Bone and Mineral Metabolismに掲載された報告は、3,040人を調べ、エックス線でみた変形性膝関節症の有病率を年代別・性別に出しています。

  • 男性:60代 35.2%/70代 48.2%/80歳以上 51.6%
  • 女性:60代 57.1%/70代 71.9%/80歳以上 80.7%

同じ報告は、日本国内の患者数をおよそ2,500万人と推計しています。どの年代でも女性のほうが高く、70代の女性では7割を超えます。なぜ女性に多いのかについては、確認できたのは「女性に多い」という事実までで、理由を決着させる数値は確認できませんでした。推測で埋めず、事実だけを置いておきます。

「動かさないほうが安全」はデータに支持されていません

変形性膝関節症に対する運動療法には、コクラン共同計画のレビューがあります。Fransen先生たちが2015年にCochrane Database of Systematic Reviewsに発表したもので、54件のランダム化比較試験からデータを抽出しています。

痛みについては44試験・3,537人の質の高いエビデンスがあり、標準化平均差は−0.49(95%信頼区間 −0.39から−0.59)、0から100の尺度に換算して12点(同 10から15点)の改善でした。身体機能も10点(同 8から13点)改善し、効果は終了後2か月から6か月まで維持されていました。さらにこのレビューは、個別に提供されたプログラムのほうが、集団形式や自宅のみの形式より効果が大きかったと報告しています。

つまり、動かさないでいることは、少なくとも変形性膝関節症においては「安全側の選択」ではありません。ただしこれは、痛みの原因がすでに診断されている人に運動療法をおこなった結果であり、原因がわからないまま自己判断で始めた場合の数字ではありません。

正直に書きます。強い負荷が正解とは限りません

ここは結果が割れているので、両方書きます。強くやるほど効くはずだと考えたくなりますが、それを直接調べたのがMessier先生たちが2021年にJAMAに発表したSTART試験です。

50歳以上・BMI 20から45で、エックス線で変形性膝関節症が確認された成人377人を、高強度の筋力トレーニング(127人)、低強度(126人)、注意対照群(124人)に割り付け、18か月追跡しました。18か月時点のWOMAC痛みスコアは高強度群5.1に対し対照群4.9、差は0.2(95%信頼区間 −0.6から1.1、P=.61)で、統計的な差はありません。膝の圧縮力にも群間差はありません。

コクランのレビューは「運動は痛みを減らす」と言い、START試験は「高強度でも上乗せはなかった」と言っています。重量を上げるほど良くなるという前提が、この試験では支持されなかった、ということです。

深くしゃがむと、膝は壊れるのか

Hartmann先生たちが2013年にSports Medicineに発表したレビューは、スクワットの深さと荷重を変えたときの膝関節と脊柱の負荷を整理しています。膝蓋骨の裏側にかかる圧縮力とストレスが最も高くなるのは膝屈曲およそ90度で、それより深く曲げると、腱が骨に巻きつくラッピング機構によって圧縮ストレスはむしろ低下します。

著者らは「ディープスクワットが受動組織への傷害リスクを増やすことはない」と述べ、さらに「同じ荷重配分のまま、ハーフやクォータースクワットで超最大荷重を扱うトレーニングは、長期的には膝関節と脊柱の変性を助長する」と書いています。「浅いほど安全」とは限らない、ということです。

ただし同じレビューは、正しい技術で、指導のもとで、段階的に負荷を上げた場合という条件をつけています。痛みのある膝でいきなり試してよいという意味ではありません。

「膝をつま先より前に出してはいけない」の根拠

この指示を直接検証した研究があります。Fry先生たちが2003年にJournal of Strength and Conditioning Researchに発表したもので、トレーニング経験のある男性7人が体重と同じ重量のバーベルでパラレルスクワットを2通りおこないました。膝の前方移動を制限しない条件と、木製のバリアで止めた条件です。

  • 制限なし:膝トルク 150.1 N・m/股関節トルク 28.2 N・m
  • 制限あり:膝トルク 117.3 N・m/股関節トルク 302.7 N・m

膝のトルクは約22%下がりました。ところが股関節のトルクは28.2から302.7へ、およそ10倍に増えています。制限した条件では体幹の前傾も大きくなりました。著者らは「膝の動きを制限すれば膝へのストレスは最小化されるかもしれないが、その力は腰部へ不適切に移される可能性が高い」とし、適切な関節負荷には膝がつま先をわずかに越えることが必要かもしれない、と述べています。

限界も書いておきます。対象は男性7人のみ、静的なトルクの比較であり、これだけで長期の安全性が決まるわけではありません。言えるのは、「膝はつま先より前に出してはいけない」という一律の指示を支持する裏づけは、確認できた範囲では見当たらなかった、ということです。減らしたぶんの負担は、どこかが引き受けています。

体重1kgが、膝にとって持つ意味

Messier先生たちが2005年にArthritis & Rheumatismに発表した研究では、変形性膝関節症のある過体重・肥満の高齢者142人の歩行を三次元動作解析で調べました。体重が1kg(9.8N)減ると、歩行中の膝の圧縮力は40.6N、合力は38.7N減っていました。体重1単位の減少が、膝にかかる力のおよそ4倍の量の減少にあたるという結論です。1日数千歩を積み上げれば臨床的に意味がある、としています。

同じグループが2013年にJAMAで報告したIDEA試験では、55歳以上・BMI 27から41で変形性膝関節症のある454人を18か月追跡しました。食事+運動の群の膝の圧縮力は2,487Nで、運動のみの群の2,687Nより低く、IL-6も低下し、痛み・機能・生活の質も良好でした。膝の話に食事が含まれる理由がここにあります。

太ももの筋力と、膝

Øiestad先生たちが2015年にOsteoarthritis and Cartilageに発表したシステマティックレビュー・メタ解析は、その表題で「膝伸展筋力の弱さは変形性膝関節症の発症のリスク因子である」と結論づけています。大腿四頭筋の弱さが、結果ではなく原因の側にも立つという指摘です。なお、対象研究数やリスク比の数値は全文を確認できなかったため書きません。

スクワットより先に、受診していただきたいサイン

ここまでの数字は、原因がわかっている膝の話です。次の状態は、トレーニングの前に医療機関で診ていただく必要があります。

  • 膝が腫れている、熱を持っている
  • ロッキング(何かが引っかかって膝が伸びない・曲がらない)がある
  • 転倒やひねりなど、外傷のあとに痛みが出た
  • 夜間や安静時に痛む
  • 脚の変形が進んでいる、急に力が抜けて崩れる感じがある

半月板や靱帯の損傷は、筋力で補える問題ではありません。痛みがある状態で、自己判断でトレーニングを始めることはおすすめしません。

よくある質問

膝が痛いとき、スクワットはしていいのですか

痛みの原因がわかっていないうちは、まず受診が先です。腫れ・ロッキング・外傷後・夜間痛があれば運動より医療機関です。診断がついた変形性膝関節症であれば、コクランのレビューで運動は0から100の尺度で痛みを12点、機能を10点改善しています。

深くしゃがむのは膝に悪いのでしょうか

Hartmann先生たちのレビューでは、膝蓋骨裏の圧縮ストレスが最大になるのは屈曲およそ90度で、それより深く曲げると低下します。受動組織の傷害リスクが増える根拠は示されていません。ただし正しい技術と段階的な負荷、指導という条件つきです。

膝はつま先より前に出してはいけないのですよね

その一律の指示を支持する裏づけは確認できませんでした。Fry先生の実験では、膝の前方移動を制限すると膝トルクは150.1から117.3N・mに下がる一方、股関節トルクは28.2から302.7N・mへおよそ10倍に増えました。負担は消えず、移動します。

参考:日吉のCLEAN.の場合

CLEAN.は日吉駅の西口から徒歩3分、女性専用・完全個室のパーソナルジムです。男性は法人契約と、既存会員様からのご紹介のみとさせていただいています。ウェア・シューズ・タオル・水はすべて無料でお貸ししますので、手ぶらで通えます。

痛みに関わることは、まず受診をお願いしています。歯科医師・理学療法士・鍼灸師とつながりがあり、必要に応じてご紹介しています。トレーニングでは、解剖学にもとづいて動きを見ています。60代の会員様もいらっしゃいます。

月額プランには、毎日のLINE食事指導と10日ごとのフィードバックが含まれます。料金は月4回コース42,000円(税込46,200円)、月8回コース72,000円(税込79,200円)、24回分の回数券211,200円(税込232,320円・有効期限180日/LINEの食事指導は含まれません)、入会金30,000円(税込33,000円)。これ以外の追加料金はありません。

選び方は3つのプランの違いに、金額の詳細は料金・プランのページにまとめています。

まとめ

日本では、変形性膝関節症の有病率は女性の60代で57.1%、70代で71.9%、80歳以上で80.7%に達し、国内の患者数はおよそ2,500万人と推計されています。コクランのレビューが44試験・3,537人で示したのは、運動が痛みを12点、機能を10点改善したという結果です。動かさないことは、安全側の選択ではありません。

一方で、強い負荷が上乗せをもたらすとは限りません。377人を18か月追跡したSTART試験では、高強度群と対照群の痛みの差は0.2で、統計的な差はありませんでした。深さについても、膝蓋骨裏のストレスが最大になるのはおよそ90度で、それより深い領域では下がります。「浅く、軽く」が自動的に安全という前提は、データに支えられていません。

「膝をつま先より前に出さない」という指示も同じです。膝トルクは150.1から117.3N・mに下がりますが、股関節トルクは28.2から302.7N・mへおよそ10倍になります。負担は消えず、移動します。そして体重が1kg減れば、歩行中に膝にかかる力は約4倍にあたる40.6N減ります。できることは、スクワットの一択ではありません。

ただし、この記事のどの数字も受診の代わりにはなりません。腫れ、ロッキング、外傷後の痛み、夜間痛、変形の進行があれば、トレーニングより先に医療機関へ。順番だけは動かさないでください。

日吉まで通うのが難しい方には、横浜のオンラインパーソナルトレーニング・オンライン食事指導(CLEAN.Online)もご用意しています。ご自宅から動きと食事の両方を見ていきます。

- CLEAN.

出典

Fransen M, McConnell S, Harmer AR, Van der Esch M, Simic M, Bennell KL, Cochrane Database of Systematic Reviews, 2015/Messier SP, Mihalko SL, Beavers DP ほか, JAMA, 2021/Hartmann H, Wirth K, Klusemann MJ, Sports Medicine, 2013/Fry AC, Smith JC, Schilling BK, Journal of Strength and Conditioning Research, 2003/Messier SP, Gutekunst DJ, Davis C, DeVita P, Arthritis & Rheumatism, 2005/Messier SP, Mihalko SL, Legault C ほか, JAMA, 2013/Yoshimura N, Muraki S, Oka H ほか, Journal of Bone and Mineral Metabolism, 2009/Øiestad BE, Juhl CB, Eitzen I, Thorlund JB, Osteoarthritis and Cartilage, 2015

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パーソナルジムを契約する前に、確認しておきたいこと