睡眠不足だと痩せないのか。落ちる「中身」が変わるという話
「寝る時間がどうしても取れなくて」
日吉の体験トレーニングでうかがった言葉です。食事は気をつけているし、運動もしている。それなのに思ったほど体が変わらない。睡眠が足りていない自覚はあるけれど、仕事と家のことを終えたら、もう日付が変わっている。削る以外の選択肢がない、と続けておっしゃいました。
この記事では、睡眠不足とダイエットの関係を、実際に確認できた研究の数字だけで整理します。睡眠を制限したまま減量すると落ちるものの中身がどう変わるか、睡眠を延ばすと食べる量が減るのか、睡眠時間と肥満の長期的な関連、食欲ホルモンの説明がどこまで確からしいか、そして日本人の実態と国の推奨です。結果が割れている論点もあります。そこは正直に書きます。
そしてこれは、睡眠を削っているあなたが悪い、という記事ではありません。仕事や育児で睡眠時間を確保できない事情は、努力でどうにかなるものばかりではないからです。ただ、睡眠が体組成にどれくらいの大きさで関わるのかを知っておけば、限られた時間をどこに使うかの判断材料にはなります。
睡眠不足のまま減量すると、落ちる「中身」が変わる
この論点には有名なランダム化比較試験があります。Nedeltcheva らが2010年に Annals of Internal Medicine に発表した交差試験です。過体重の成人(平均年齢41歳、平均BMI 27.4)に同じカロリー制限をしたうえで、14日間を「8.5時間の睡眠機会」と「5.5時間の睡眠機会」の2条件で過ごしてもらい、体組成の変化を比べました。
総減量は8.5時間条件で2.9kg、5.5時間条件で3.0kg。体重の落ち方はほぼ同じでした。変わったのは内訳です。脂肪の減少は1.4kgに対して0.6kg(p = 0.043)、除脂肪量の減少は1.5kgに対して2.4kg(p = 0.002)。体重計の数字は同じように減っているのに、減った中身が脂肪から除脂肪へずれていたことになります。
ただし参加者は10名(女性3名、男性7名)です。ここは正直に書きます。10名の交差試験は示唆的ではありますが、これ1本で確定と言える規模ではありません。女性が3名しかいないため、女性に同じ大きさで当てはまるかどうかも、この研究からは言えません。
もう少し人数の多い研究もあります。Wang らが2018年に Sleep 誌に発表した8週間の研究では、過体重・肥満の成人36名を、カロリー制限のみの群と、軽度の睡眠制限を加えた群に分けました。実際の睡眠減少は週169分ほどです。落ちた体重に占める脂肪の割合は、カロリー制限のみの群のほうが有意に大きいという結果でした(p = 0.016)。睡眠不足が減量を止めるというより、減った分の内訳を不利な側にずらす、という読み方が現時点では素直だと思います。
睡眠を延ばすと、食べる量は減るのか
ここには規模の大きい試験があります。Tasali らが2022年に JAMA Internal Medicine に発表したランダム化比較試験です。普段の睡眠が6.5時間未満の過体重の成人80名を、睡眠を延ばす個別カウンセリングを受ける群と対照群に分け、エネルギー摂取量を客観的に評価しました。
睡眠延長群の睡眠時間は平均1.2時間増え、エネルギー摂取量は対照群より1日あたり平均270kcal少なくなりました。参加者は食事内容の指導を受けていません。寝る時間を延ばしただけで、食べる量のほうが動いたということです。
逆方向の介入をまとめたメタ解析もあります。Al Khatib らが2017年に European Journal of Clinical Nutrition に発表したもので、部分的な睡眠制限の研究を統合しました(メタ解析対象は11研究、172名)。睡眠を制限した条件では、エネルギー摂取量が1日あたり385kcal増加しました(95%信頼区間 252〜517、p < 0.00001)。一方、総エネルギー消費量と安静時代謝率には有意な変化がありませんでした。内訳では脂質が増え、たんぱく質が減る傾向も報告されています。
270kcalと385kcalは別々の研究の別々の介入なので足し引きはできませんが、どちらも、睡眠時間が変わると消費側よりまず摂取側が動く、という同じ絵を描いています。
睡眠時間と肥満の関連は、長期でも見えるのか
短期の試験で起きたことが年単位でも観察されるのか、という問いです。Wu らが2014年に Sleep Medicine に発表した前向きコホート研究のメタ解析は、11本の研究(短時間睡眠の解析対象は197,906名)を統合し、短い睡眠と肥満発症のオッズ比を1.45(95%信頼区間 1.25〜1.67)、異質性の高い3研究を除いた感度解析では1.25(95%信頼区間 1.14〜1.38)と報告しています。長時間睡眠と将来の肥満には有意な関連がありませんでした。
より大規模なものに、Cappuccio らが2008年に Sleep 誌に発表したメタ解析があります。子どもと成人あわせて634,511名を含み、成人では短時間睡眠で肥満が約1.55倍という関連が示されました。ただしこちらは横断研究が中心で、睡眠が短いから太るのか、太っているから睡眠が短くなるのかを区別できません。時間の前後関係という点では、Wu らの結果のほうが強い証拠になります。
それでも観察研究である以上、交絡は残ります。長時間労働、交代勤務、ストレスといった要因は、睡眠時間と体重の両方に同時に影響します。ここは、断定しないほうが誠実な領域です。短い睡眠の人に肥満が多いという関連は繰り返し確認されている。ただし、睡眠を延ばせば必ず痩せるという因果までは言えない。そう受け取るのが適切です。
グレリンとレプチン ── 有名な説明と、その後の検証
出発点は Spiegel らが2004年に Annals of Internal Medicine に発表した実験です。健康な若い男性12名で2日間の4時間睡眠と10時間睡眠を比べたところ、食欲を抑えるレプチンが18%低下し、食欲を高めるグレリンが28%上昇しました。同じ2004年、Taheri らは PLOS Medicine で1,024名の横断解析を発表し、習慣的な睡眠が8時間の人と比べ5時間の人ではレプチンが15.5%低く(p = 0.01)、グレリンが14.9%高い(p = 0.008)と推定しました。実験と観察の両方から同じ方向の結果が出たことで、この説明は広まりました。
ここからは、正直に書きます。その後の検証で、この2つのホルモンの変化は思ったほど安定して再現されていません。Gresser らが2025年に Obesities 誌に発表した無作為化比較試験のメタ解析では、グレリンの変化は標準化平均差 −0.27(95%信頼区間 −1.00〜0.46、p = 0.4712)、レプチンは 0.10(95%信頼区間 −0.22〜0.42、p = 0.5266)で、いずれも有意ではありませんでした。対象は6件・141名と小規模で、グレリンは研究間のばらつきも大きい状態です(I² = 83.8%)。著者らは採血のタイミングや対象者の違いを理由に挙げています。
睡眠不足で食べる量が増えるという現象自体は介入研究で繰り返し確認されていますが、その理由をこの2つのホルモンだけで説明できるとは言い切れません。メカニズムは断定せず、行動レベルで観察されている変化のほうを手がかりにする。それが今の証拠に見合った扱い方だと思います。
量だけでなく、食べたくなるものが変わる
Greer らが2013年に Nature Communications に発表した研究では、健康な若年成人23名(うち女性13名)に、通常睡眠(平均8.2時間)の翌朝と完全断眠(平均24.6時間の覚醒)の翌朝、80種類の食品の「食べたさ」を評価してもらいました。断眠後は高カロリー食品を選ぶ割合が有意に増え(p = 0.04)、選んだ食品の総カロリーはおよそ600kcal増えました(p = 0.05)。眠気の強さと高カロリー食品への選好にも相関がありました(r = 0.59、p < 0.01)。
条件は「一晩まったく寝ない」という極端なもので、5時間睡眠が続く日常と同じではありません。そこは割り引いて読む必要があります。それでも、睡眠が足りない日に甘いものやこってりしたものが欲しくなる感覚が、意志の弱さではなく測定可能な変化として観察されている点は、知っておいて損がないと思います。
トレーニングのパフォーマンスはどうなるか
Craven らが2022年に Sports Medicine に発表したメタ解析は、急性の睡眠不足が運動パフォーマンスに与える影響を69本の研究(959名、89%が男性)から統合し、全体で平均7.56%の低下を報告しています(95%信頼区間 −11.9〜−3.13、p = 0.001)。
ただし条件差があります。午後の課題では低下が一貫して観察された一方、午前中の課題はおおむね影響を受けていませんでした。ばらつきも大きく、参加者の約9割が男性です。数字をそのまま当てはめるには注意が要りますが、睡眠が足りない日は午後や夕方のトレーニングの質が落ちやすい、という程度には参考になります。
日本の数字と、国が示している目安
厚生労働省の令和6年 国民健康・栄養調査によると、20歳以上女性の1日の平均睡眠時間は「5時間未満」が7.6%、「5時間以上6時間未満」が31.3%、合わせて6時間未満が38.9%です(男性は6.8%と29.4%)。睡眠で休養がとれている者の割合は79.6%(男性80.4%、女性78.9%)でした。
前年の令和5年調査では6時間未満が男性38.5%、女性43.6%で、男性の30〜50歳代、女性の40〜60歳代では4割を超えていました。睡眠で休養がとれている者の割合は74.9%です。年によって数字は動きますが、働く世代の女性のおよそ4割が6時間未満で生活しているという実態は変わりません。
目安としては、厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」が、成人について「適正な睡眠時間には個人差があり、6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する」としています。同ガイドは時間の長さだけでなく睡眠休養感を高めることの重要性にも触れ、更年期女性の4〜6割が睡眠の悩みを抱えていることにも言及しています。休養感が上がらない場合は、背後に病気が潜んでいる可能性にも留意するよう述べられています。
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参考:日吉のCLEAN.の場合
CLEAN.は日吉駅 西口から徒歩3分の、女性専用・完全個室のパーソナルジムです(男性は法人契約と、既存会員様からのご紹介のみ)。睡眠は体験トレーニングでもよくうかがう話題ですが、仕事や育児の事情で増やせない方がいるのも事実です。睡眠時間を増やす前提のご提案は、それができる方にしかお出ししません。
月額プランには、毎日のLINE食事指導と、10日ごとのフィードバックが含まれます。毎日やりとりしていれば、睡眠が削られた翌日に食事の内容が変わること自体は記録に残ります。Al Khatib らのメタ解析が示した「脂質が増え、たんぱく質が減る」に近いことが起きているなら、たんぱく質を先に確保するといった調整はできます。睡眠時間を増やせない前提でも取れる手です。
通っていただくうえでの準備も少なくしています。ウェア・シューズ・タオル・水はすべて無料で貸し出しますので、手ぶらで通えます。料金は、月4回コースが42,000円(税込46,200円)、月8回コースが72,000円(税込79,200円)、24回分の回数券が211,200円(税込232,320円・有効期限180日/LINEの食事指導は含まれません)、入会金が30,000円(税込33,000円)で、これ以外の追加料金はありません。回数の選び方は3つのプランの違いと料金・プランのページにまとめています。
なお、日中の強い眠気やいびき、寝ても休養感が戻らないといった症状は、トレーニングや食事の調整で解決する範囲を超えていることがあります。体調や痛みに関わることは、まず受診をお願いしています。
まとめ
睡眠を制限したまま減量した交差試験(Nedeltcheva ら, 2010)では、総減量は2.9kgと3.0kgでほぼ同じでしたが、脂肪の減少は1.4kgから0.6kgへ減り、除脂肪量の減少は1.5kgから2.4kgへ増えました。参加者は10名、うち女性は3名という規模です。同じ方向の結果は、36名を8週間追った研究(Wang ら, 2018)でも確認されています。
食べる量では、睡眠を平均1.2時間延ばした80名の試験(Tasali ら, 2022)で摂取量が1日270kcal減り、睡眠を制限したメタ解析(Al Khatib ら, 2017)では1日385kcal増えました。消費量に有意な変化はありません。長期では、前向きコホートのメタ解析(Wu ら, 2014)が短時間睡眠と肥満発症のオッズ比1.45(感度解析で1.25)を報告しています。
一方、グレリンとレプチンによる説明は、当初の実験(Spiegel ら, 2004:レプチン −18%、グレリン +28%)ほどには再現されていません。無作為化比較試験のメタ解析(Gresser ら, 2025)では、どちらも有意ではありませんでした。食べたくなるものの変化(Greer ら, 2013:約600kcal分)や運動パフォーマンスの低下(Craven ら, 2022:平均7.56%、主に午後)も報告されていますが、条件と対象者に偏りがあります。
日本では、令和6年 国民健康・栄養調査で女性の38.9%、令和5年調査では43.6%が1日6時間未満の睡眠でした。国の目安は6時間以上です。それを確保できない事情がある方に、この記事は「もっと寝てください」とは言いません。ただ、7時間寝られた日と5時間だった日とでは体の中で起きていることが違うと知っていれば、食事やトレーニングの組み立てを日によって変える、という選択肢は生まれます。そこまでが、現時点の研究が支えてくれる範囲です。
日吉まで通うのが難しい方や、生活リズムを含めて相談しながら進めたい方には、オンラインのご案内もあります。横浜のオンラインパーソナルトレーニング・オンライン食事指導(CLEAN.Online)もあわせてご覧ください。
- CLEAN.
出典
Nedeltcheva AV ほか, Annals of Internal Medicine, 2010/Wang X ほか, Sleep, 2018/Tasali E ほか, JAMA Internal Medicine, 2022/Al Khatib HK ほか, European Journal of Clinical Nutrition, 2017/Wu Y ほか, Sleep Medicine, 2014/Cappuccio FP ほか, Sleep, 2008/Spiegel K ほか, Annals of Internal Medicine, 2004/Taheri S ほか, PLOS Medicine, 2004/Gresser D ほか, Obesities, 2025/Greer SM ほか, Nature Communications, 2013/Craven J ほか, Sports Medicine, 2022/厚生労働省, 令和6年 国民健康・栄養調査結果の概要/厚生労働省, 令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要/厚生労働省, 健康づくりのための睡眠ガイド2023