女性のベンチプレスは何のためか。胸ではなく、骨と前鋸筋の話

「ベンチプレスはやりたくないです。胸が小さくなりそうだし、肩がゴツくなりそうで」。日吉で体験トレーニングを受けられる方から、実際にうかがった言葉です。

気持ちは分かります。ベンチプレスは、どう見ても男性の種目に見えます。ジムの動画も、重量の自慢も、ほとんど男性のものです。

ただ、研究を並べていくと、女性にとってこの動作を外す理由はほとんど見当たりません。この記事では、「ゴツくなるのか」「何のためにやるのか」「肩を痛めないために何を守るのか」を、数字で書きます。

「女性は筋トレでゴツくなる」は、どこまで本当か

同じレジスタンストレーニングを男女が行った場合の差を調べた系統的レビュー・メタ解析(2020年)があります。

  • 筋肥大(10研究・12アウトカム):効果量 0.07、P = 0.31 → 男女差なし
  • 上半身の筋力(17研究・19アウトカム):効果量 −0.60、P = 0.002 → 女性のほうが伸びが大きい
  • 下半身の筋力(23研究):効果量 −0.21、P = 0.20 → 差なし

上半身の筋力について、未訓練の女性は男性より伸びしろが大きい可能性がある、というのが著者らの見方です。

では「ゴツくなる」はどこから来るのか。ホルモンの差です。思春期以降、男性の血中テストステロンは女性の15倍を超えます(18〜40歳の基準範囲で、男性7.7〜29.4 nmol/L に対し女性0〜1.7 nmol/L)。筋量・筋力とヘモグロビンの差が、運動能力で少なくとも8〜12%の差を生む、とされています。

同じ量のトレーニングをしても、絶対量として増える筋肉の量が最初から違います。「相対的な伸び(%)は同等だが、絶対量は男性が上」という整理が、現状もっとも実態に近い説明です。

付け加えると、思春期前では、循環テストステロン濃度にも競技成績にも性差はありません。差はホルモンが作っています。

では、何のためにやるのか(1)骨

ここがいちばん強い根拠です。

骨量が低下した閉経後女性101名を対象にしたランダム化比較試験(LIFTMOR試験、2018年)があります。平均65歳。8か月間、週2回、1回30分、監督下で1RMの85%超・5セット×5回という高強度で、デッドリフト・オーバーヘッドプレス・バックスクワットと懸垂ジャンプを行いました。

  • 腰椎の骨密度:介入群 +2.9% に対し 対照群 −1.2%(p < 0.001)
  • 大腿骨頸部の骨密度:+0.3% に対し −1.9%(p = 0.004)
  • 大腿骨頸部の皮質骨厚:+13.6% に対し +6.3%(p = 0.014)
  • 身長:+0.2cm に対し −0.2cm(p = 0.004)
  • 背筋力:+36.0% に対し +11.0%(p < 0.001)

そして、有害事象は1件のみ(軽度の腰部の痙攣)でした。著者らは「現在の通念に反し、高度に監督された条件下で高強度トレーニングは有効で、有害事象を生じなかった」と書いています。

「高齢の女性に重い重量は危ない」という前提のほうが、データに支えられていません。もちろん「高度に監督された条件下で」という限定つきです。

頻度については、閉経後女性を対象にしたRCT 19件・919名のネットワークメタ解析(2023年)が、中強度(1RMの65〜80%)・週3日がもっとも有効だったと報告しています。

では、何のためにやるのか(2)肩甲骨を支える筋肉

ベンチプレスで主に働くのは、大胸筋・三角筋前部・上腕三頭筋です。ベンチの角度で貢献が変わり、訓練経験者30名の筋電図研究(2020年)では、大胸筋上部は30度で最大、大胸筋中部・下部はフラット(0度)で最大、三角筋前部は60度で最大、上腕三頭筋は全角度でほぼ一定でした。

ただ、女性にとって見逃せないのは、押す動作の土台にある前鋸筋です。肋骨から肩甲骨の内側に付き、肩甲骨を胸郭に引きつけながら上方回旋させる筋肉です。

女性17名を対象に、7種目を2つの強度で測った筋電図研究(2012年)では、プッシュアップ・プラス、ショルダープレス、プレスアップで、前鋸筋が僧帽筋上部より18〜45%高く活動していました。被験者が全員女性である点で、参照価値の高い研究です。

健常者20名の研究(1999年)でも、前鋸筋の活動が最大随意収縮の20%を超えたのは、セラタスアンテリア・パンチ、スケープション、ダイナミックハグ、ニープッシュアップ・プラス、プッシュアップ・プラスの5種目。肩甲骨を上方回旋位に保ちながら前方突出を強調する動作で、もっとも高い活動が出ています。

肩の痛みとの関係は、正直に書きます

ここは誇張されやすい領域なので、慎重に書きます。

肩インピンジメント症状のある建設作業者と、同じだけ頭上作業をしている無症状者を比べた研究(2000年、52名)では、有症状群で肩甲骨の上方回旋の減少、前傾の増加、そして前鋸筋の活動低下が全ての荷重・全ての相で観察されました。

ただし——ここが大事なところです——肩甲骨の動きの異常(肩甲骨ディスキネジス)についての国際コンセンサス(2013年)は、その有病率が肩の痛みがある人で76%、ない人で77%とほぼ同等であることを明記しています。屈曲動作では71%と71%。さらに、痛みのない水泳選手でも、1回の練習中に82%まで上昇したという報告もあります。

つまり、肩甲骨の動きが崩れていること自体は、痛みのない人にも同じくらい見られる現象です。「前鋸筋を鍛えれば肩の痛みが治る」とは言えません。言えるのは、症状のある人では前鋸筋の活動低下が観察されている、というところまでです。

肩に痛みがある状態でベンチプレスを始めるのは、順番が違います。まず整形外科です。

肩を守るために、手幅だけは守ってください

バーを握る手幅について、まとまった解説があります(2007年、NSCA発行の総説)。

  • 両肩の肩峰の間の距離(両肩峰幅)の1.5倍を超える手幅は、ナローグリップと比べて肩関節にかかるトルクを約1.5倍に増やす
  • 両肩峰幅の2倍以上の手幅では、肩関節の外転角度が75度を超える
  • 両肩峰幅の1.5倍未満なら、外転角度は45度未満に保たれる
  • 一方、手幅を100%〜200%まで変えても、挙上できる最大重量の差は有意ではない(±5%程度)

受傷リスクが高いとされる肢位は、外転約90度+外旋の組み合わせです。手幅を広げるほどここに近づきます。そして広げても重量はほとんど変わらない。

要するに、広く持つ理由がありません。肩峰幅の1.5倍以内、肩の開きは45度くらいまで。これだけで、負担はかなり変わります。

「基礎代謝が上がる」については、誇張しません

筋トレの効果としてよく語られるのが基礎代謝の上昇ですが、女性についてはエビデンスが弱いのが正直なところです。

座位中心の生活者40名(若年男性・若年女性・高齢男性・高齢女性)が24週間の筋力トレーニングを行った研究では、全体では安静時代謝率が7%増加した一方、性別で分けると男性は9%増加、女性は有意な増加を示しませんでした。除脂肪量の変化自体は男女で同様だったにもかかわらず、です。

ですので、女性が上半身のトレーニングをする理由を「代謝が上がるから」に置くのは、根拠として弱いと考えています。骨密度、筋力、身体機能。こちらのほうが、はるかに強いデータがあります。

どれくらいやればいいのか

公的なガイドラインの文言は、こうです。

WHO(2020年):「成人は、すべての主要な筋群を用いる中強度以上の筋力向上活動を、週2日以上行うべきである」。推奨の強さは「強い推奨」、エビデンスの確実性は「中程度」です。

厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」:「成人および高齢者に、筋トレを週2〜3日実施することを推奨する」。根拠として「週に2〜3日の筋トレを実施するプログラムが最も多く採用されていました」と記載されています。

週2〜3日。1回30分でも、LIFTMOR試験の条件を満たします。

参考:日吉のCLEAN.の場合

比較の材料になるよう、当ジムがどうしているかも書いておきます。

日吉駅 西口から徒歩3分、女性専用・完全個室のパーソナルジムです。男性は法人契約と、既存会員様からのご紹介のみお受けしています。ウェア・シューズ・タオル・水はすべて無料でお貸しするので、手ぶらで通えます。

ベンチプレスは、全員に一律でやっていただく種目ではありません。肩に痛みや既往がある方は、まず受診をお願いしています。歯科医師・理学療法士・鍼灸師の先生方とつながりがあり、必要に応じてご紹介もしています。

始める場合の順番は、押す前に支えるところからです。プッシュアップ・プラスやプレスアップのような、肩甲骨を胸郭に引きつけながら押す動作で前鋸筋を先に働かせてから、バーに移ります。手幅は、肩峰幅の1.5倍以内を目安に、お一人ずつ測って決めています。

完全個室なので、ベンチプレスをしている姿を誰にも見られません。「ジムでベンチに寝るのが恥ずかしい」という理由で上半身を避けてきた方は、その心配だけはなくなります。

料金は月4回コースが42,000円(税込46,200円)、月8回コースが72,000円(税込79,200円)。24回分の回数券は211,200円(税込232,320円・有効期限180日)です。入会金は30,000円(税込33,000円)で、これ以外の追加料金はありません。3つのプランの違いと料金・プランのページに、含まれるものをすべて書いています。

まとめ

同じトレーニングをしたときの筋肥大に、男女差はありませんでした(効果量0.07、P = 0.31)。上半身の筋力はむしろ女性のほうが伸びています。「ゴツくなる」ほどの絶対量が出ないのは、テストステロン濃度が15倍以上違うからです。

骨については、オーバーヘッドプレスを含む高強度トレーニングで、閉経後女性の腰椎骨密度が+2.9%(対照群 −1.2%)という結果があります。有害事象は101名中1件でした。

肩甲骨の動きの異常は、痛みのない人にも76〜77%見られます。前鋸筋を鍛えれば痛みが治る、とは書けません。痛みがあるなら、まず整形外科です。

そして手幅。肩峰幅の1.5倍を超えると肩へのトルクが約1.5倍になり、それでいて挙上重量はほとんど変わりません。

日吉に通うのが難しい方は、横浜のオンラインパーソナルトレーニング・オンライン食事指導(CLEAN.Online)もご検討ください。

- CLEAN.

出典

Roberts BM ほか, Journal of Strength and Conditioning Research, 2020/Handelsman DJ ほか, Endocrine Reviews, 2018/Watson SL ほか(LIFTMOR), Journal of Bone and Mineral Research, 2018/Wang Z ほか, Frontiers in Physiology, 2023/Rodríguez-Ridao D ほか, International Journal of Environmental Research and Public Health, 2020/Andersen CH ほか, Journal of Strength and Conditioning Research, 2012/Decker MJ ほか, American Journal of Sports Medicine, 1999/Ekstrom RA ほか, Journal of Orthopaedic and Sports Physical Therapy, 2003/Ludewig PM, Cook TM, Physical Therapy, 2000/Kibler WB ほか, British Journal of Sports Medicine, 2013/Green CM, Comfort P, Strength and Conditioning Journal, 2007/Lemmer JT ほか, Medicine and Science in Sports and Exercise, 2001/Bull FC ほか(WHO 2020 guidelines), British Journal of Sports Medicine, 2020/厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」

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