水は1日2リットル必要か。8杯という目安の出どころ
「水を2リットル飲まないと痩せないんですよね」
日吉の体験トレーニングで、実際にうかがった言葉です。同じ日に「今日はまだ1.5リットルしか飲めていなくて」ともおっしゃっていました。水を飲むことが、健康のための手段ではなく、達成できないと自分を責める対象になっている。この記事では、「1日2リットル」がどこから来た数字なのか、水を増やすと本当に体重や頭の働きが変わるのかを、実際に開いて確認できた研究だけで整理します。
先にお伝えします。この記事は「飲まなくていい」とも「2リットルは必須」とも言いません。どちらにも決定的な証拠はありませんでした。はっきりしているのは、必要量の個人差が大きいこと、食事からもかなりの量を摂っていること、飲みすぎにも実害があることです。
「1日8杯・2リットル」の出どころ
この目安を正面から検証した論文があります。腎臓生理学者のバルティン氏が2002年に American Journal of Physiology に発表したレビューです。データベースを検索し栄養学の専門家にも問い合わせた結果、「1日にコップ8杯」を裏づける査読つきの研究はひとつも見つからなかったと報告しています。
そのうえで彼は出どころを指摘しました。米国の食品栄養委員会(Food and Nutrition Board)が出した「食事1キロカロリーあたり約1ミリリットルの水」という勧告です。一般的な食事量なら、およそ2〜2.5リットルになります。問題は直後の一文でした。勧告には「この量の大部分は、調理された食品に含まれている」と続いていたのですが、伝わる過程でこの一文が落ちた、というのが彼の見立てです。元の趣旨は「2リットルを飲め」ではなく「食事を含めて2〜2.5リットルを体に入れよ」でした。なお、この勧告が出された正確な年は、今回開いた資料では確定できなかったため書きません。
実際に体が使う水の量は、幅が大きい
二重標識水法という実測手法があります。安定同位体を含む水を飲んでもらい、体が1日にどれだけ水を入れ替えているか(代謝回転量)を測る方法です。山田陽介氏らの国際共同研究が2022年に Science に掲載されました。生後8日から96歳までの5,604人の実測です。
- 全体では1日1〜6リットルに分布し、外れ値では10リットルに達する人もいた
- 海抜0メートル・気温10度・湿度50パーセント・非アスリートという条件の計算値は、体重70キログラムの20歳男性で3.2リットル、体重60キログラムの20歳女性で2.7リットル
- 男性は20代がピーク、女性は20歳から55歳までほぼ横ばい
大事なのは、代謝回転量は「飲むべき量」ではないことです。食べ物にも水が含まれるためで、研究者自身がそう説明しています。エネルギー消費量が2倍なら約1リットル増え、アスリートは約1リットル多いとも報告されています。なお、この研究が食事由来の割合を示していたかは確認できませんでした。
配分については、米国医学研究所が2004年に出した基準に数字があります。成人の総水分摂取量の目安を19〜30歳の男性で3.7リットル、女性で2.7リットルとし、全国調査から約20パーセントが食品由来、残り80パーセントが飲み物由来と述べています。女性の2.7リットルなら、実際に飲む分は計算上2.2リットル前後。日本食はさらに汁物や米飯が多く、この割合がそのまま当てはまるとは限りません。
水を増やすと痩せるのか
正直に書きます。「2リットル飲めば痩せる」を裏づける研究は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。見つかったのは、すべて「食前に500ミリリットル」という限定的な形の介入です。
デイビー氏らが2008年に Journal of the American Dietetic Association に報告した試験では、平均61.3歳・平均BMI34.3の24人が朝食の30分前に500ミリリットルを飲むと、その朝食が500±32キロカロリー、飲まない日が574±38キロカロリー(P=0.004)。約13パーセントの減少です。
デニス氏らが2010年に Obesity に発表したのは、55〜75歳・BMI25〜40の48人による12週間の試験です。全員が低カロリー食を行い、片方だけ毎食前に500ミリリットルを飲みました。水を飲んだ群の減量幅が約2キログラム大きい結果です。ただし同じ論文には、開始時は食前の水が一食の摂取カロリーを有意に減らしていた(498±25対541±27キロカロリー、P=0.009)のに、12週間後には有意差が消えた(480±25対506±25キロカロリー、P=0.069)とも書かれています。体が慣れる可能性があります。
パレッティ氏らが2015年に Obesity に発表した試験では、肥満のある84人を一般診療の現場で12週間追跡しました。食前30分に500ミリリットルの群がマイナス2.4キログラム、対照群がマイナス1.2キログラム。未調整の差はマイナス1.3キログラム(95パーセント信頼区間 マイナス2.4〜マイナス0.14、p=0.028)でしたが、年齢や性別で調整するとマイナス1.2キログラム(同 マイナス2.4〜0.07、p=0.063)となり、有意差は消えました。3食すべての前に実際に飲めていた人は、そうでない人より12週間で3.6キログラム多く減っていましたが、これは事後の部分集団解析です。
言える範囲はここまでです。食前の500ミリリットルは、低カロリー食に上乗せして12週間で1〜2キログラム程度の差を生むかもしれない。水だけで痩せる話ではありません。
水分不足と、頭の働き・頭痛
ウィットブロット氏らが2018年に Medicine & Science in Sports & Exercise に発表したメタ解析は、33件の研究・413人分を統合しています。全体の効果量はマイナス0.21と小さく、影響が大きかったのは注意力(マイナス0.52)と運動協調(マイナス0.40)、反応時間はマイナス0.10。影響は体重の2パーセントを超える脱水で大きくなりました(p=0.04)。体重50キログラムなら2パーセントは1キログラム。日常でそこまで失うのは、真夏の屋外や激しい運動くらいです。
頭痛は結果が割れているので、両方示します。シュピフト氏らが2012年に Family Practice に発表したランダム化試験では、頭痛のある102人(介入52人、対照50人)に1日1.5リットルの追加の水を指示しました。頭痛の日数は減りませんでした。一方、片頭痛特異的QOL尺度は4.5点改善し、「良くなった」と自己申告した人は水の群で47パーセント、対照群で25パーセント。2015年の Journal of Evaluation in Clinical Practice の批判的吟味は、検出力不足・盲検化の不完全さ・脱落の多さを指摘しています。有意だったのは主観的な指標だけでした。
飲みすぎにもリスクがあります
アーモンド氏らが2005年に New England Journal of Medicine に発表した研究は、2002年のボストンマラソンのランナー488人を調べたものです。13パーセントに低ナトリウム血症が認められました。関連していたのはレース中の体重増加(オッズ比4.2)、4時間を超えるレースタイム(オッズ比7.4)、BMIの極端さ。走ったあとに体重が増えているのは、失った以上に飲んだということです。
コーヒーやお茶は水分に数えてよいか
キラー氏らが2014年に PLOS ONE に発表した交差試験では、普段コーヒーを1日3〜6杯飲む男性50人が、体重1キログラムあたり4ミリグラムのカフェイン(200ミリリットル×4杯分)を3日間摂る条件と、同量の水を摂る条件を比べました。総体水分量は51.5±1.4対51.4±1.3キログラム、24時間尿量は2,409±660対2,428±669ミリリットルでいずれも差なし。血清浸透圧や尿浸透圧にも差はなく、違ったのは尿中ナトリウム排泄だけでした(p=0.02)。バルティン氏のレビューも、カフェイン飲料は大多数の人で1日の水分摂取にカウントしてよいと結論づけています。
日本の公的な呼びかけは「あと2杯」
厚生労働省が進めてきた「健康のため水を飲もう」推進運動があります(水道行政の移管により、現在は国土交通省と環境省のサイトに掲載)。合言葉は「目覚めの一杯、寝る前の一杯」で、起床時と就寝前、スポーツの前後、入浴の前後、飲酒時の補給を呼びかけています。量の記述は控えめで、「平均的には、コップの水をあと2杯飲めば、一日に必要な水の量を概ね確保できます」とあります。「2リットル飲め」ではなく「いまより2杯」です。防ごうとしているのは熱中症、脳梗塞、心筋梗塞、深部静脈血栓症で、平成18年の脳梗塞による死亡者数78,975人、急性心筋梗塞による死亡者数45,039人が挙げられています。
運動するときは、体重で測るのが確実です
米国スポーツ医学会が2007年に Medicine and Science in Sports and Exercise に出したポジションステートメントは、発汗量と汗の電解質量の個人差が大きいため補給は個別化すべきとしています。運動中の目標は体重の2パーセントを超える脱水を防ぐこと、そして自分の発汗量は運動の前後で体重を量れば推定できること。減っていればその分が失った水分、増えていれば飲みすぎです。
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よくある質問
やっぱり1日2リットルは飲んだほうがいいのでしょうか
全員に当てはまる数字ではありません。実測研究では1日の水の代謝回転量は1〜6リットルと幅が大きく、20歳女性の標準的な条件で2.7リットルでした。しかもそのうち約20パーセントは食事から摂っています。厚生労働省の運動も「いまよりコップ2杯」という言い方をしています。
ダイエット中は水を多く飲むべきですか
食前30分に500ミリリットルという形なら、根拠があります。12週間の試験で約2キログラム多く減った報告と、調整後は有意差が消えた報告の両方があり、結果は割れています。効果は1〜2キログラム程度で、低カロリー食への上乗せです。水だけで痩せる方法ではありません。
コーヒーやお茶は水分に数えないほうがいいですか
数えて差し支えありません。50人の交差試験で、コーヒー4杯分と同量の水を比べたところ、総体水分量も24時間尿量もほぼ同じでした。2002年のレビューも、カフェイン飲料は大多数の人で1日の水分摂取にカウントしてよいと結論づけています。
参考:日吉のCLEAN.の場合
CLEAN.は日吉駅西口から徒歩3分の、女性専用・完全個室のパーソナルジムです。男性は法人契約と、既存会員様からのご紹介のみお受けしています。ウェア・シューズ・タオル・水はすべて無料で貸し出していますので、手ぶらでお越しいただけます。セッション中の水も無料です。「水筒を忘れたから今日はやめておこう」で足が止まらないように、という考えによるものです。
月額プランには、毎日のLINE食事指導と、10日ごとのフィードバックが含まれます。水の量のご相談も多いのですが、飲んだ量そのものより、運動の前後で体重がどう動いたかのほうが情報量が多いと考えています。
料金は、月4回コースが42,000円(税込46,200円)、月8回コースが72,000円(税込79,200円)。24回分の回数券は211,200円(税込232,320円・有効期限180日)で、こちらにLINEの食事指導は含まれません。入会金は30,000円(税込33,000円)、これ以外の追加料金はありません。どのプランが合うかは3つのプランの違いと料金・プランのページをご覧ください。
体調や持病に関わること、たとえば心臓や腎臓の病気、服用中のお薬、むくみや頻尿のご相談は、私たちが判断せず、まず受診をお願いしています。水分の摂取量は、そうしたご事情で注意点が変わるからです。
まとめ
「1日8杯・2リットル」を裏づける査読つきの研究は、2002年のレビューでも見つかっていません。起点とされる勧告には「この量の大部分は調理された食品に含まれている」という一文が続いていましたが、それが落ちたまま広まったと指摘されています。
5,604人を実測した2022年の研究では、1日の代謝回転量は1〜6リットルと幅がありました。標準的な条件での計算値は20歳女性で2.7リットル、20歳男性で3.2リットル。ただしこれは飲むべき量ではなく、米国の基準では総水分の約20パーセントが食品由来とされています。
減量は、食前30分の500ミリリットルという形でのみ根拠がありました。12週間で約2キログラム多く減った報告と、調整後に有意差が消えた報告の両方があります。認知機能への影響が明確になるのは体重の2パーセントを超える脱水から、頭痛は日数が減りませんでした。逆にボストンマラソンでは488人中13パーセントに低ナトリウム血症が見られ、体重増加がオッズ比4.2で関連していました。
実務的な結論はひとつです。カップの数を数えるより、運動の前後で体重を量るほうが確実。そして多くの方には、厚生労働省が言うように「いまよりコップ2杯」で足りるのかもしれません。2リットルに届かない日があっても、それは失敗ではありません。
日吉まで通うのが難しい方には、オンラインでのご対応もあります。横浜のオンラインパーソナルトレーニング・オンライン食事指導(CLEAN.Online)では、ご自宅でのトレーニングと食事のご相談を承っています。
- CLEAN.
出典
Valtin H, American Journal of Physiology - Regulatory, Integrative and Comparative Physiology, 2002/Yamada Y ほか(IAEA DLW Database Consortium), Science, 2022/Institute of Medicine, Dietary Reference Intakes for Water, Potassium, Sodium, Chloride, and Sulfate, 2004/Davy BM ほか, Journal of the American Dietetic Association, 2008/Dennis EA ほか, Obesity, 2010/Parretti HM ほか, Obesity, 2015/Wittbrodt MT ほか, Medicine & Science in Sports & Exercise, 2018/Spigt M ほか, Family Practice, 2012/(同試験の批判的吟味)Journal of Evaluation in Clinical Practice, 2015/Almond CS ほか, New England Journal of Medicine, 2005/Killer SC ほか, PLOS ONE, 2014/American College of Sports Medicine(Sawka MN ほか), Medicine and Science in Sports and Exercise, 2007/厚生労働省「健康のため水を飲もう」推進運動(現・国土交通省、環境省掲載)