産後の体づくりはいつから始めていいのか。日本に学会の基準がない、という話から
産後の体づくりについて調べると、「産後2か月から」「産後6週を過ぎたら」といった数字が並びます。サイトによって違うので、どれを信じればいいのか分からなくなります。
結論から書きます。日本の学会が定めた「産後◯週から運動してよい」という基準は、調べた限り存在しません。海外のガイドラインにも、日数の基準はありません。
これは不親切な話に聞こえますが、理由があります。この記事では、公的な文書に何が書かれていて、何が書かれていないのかを、そのまま整理します。
日本には、産後の運動に関する学会の推奨が事実上ありません
日本臨床スポーツ医学会の「妊婦スポーツの安全管理基準」(2019年)は、内容が妊娠中に限定されています。産褥期・産後の運動再開についての記述は含まれていません。
日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会の「産婦人科診療ガイドライン 産科編2020」にも、産褥期の運動や生活復帰を扱った独立したクリニカルクエスチョンは置かれていません。産褥に関する項目は、産後異常出血、授乳、産褥精神障害などです。
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」には、「妊婦及び産後の女性」も身体活動により健康効果を得られるという言及はありますが、産後の女性向けの具体的な開始時期・強度・時間の処方は書かれていません。
つまり、日本語で見つかる「産後◯週から」という数字の多くは、公的な裏づけを持っていません。
国際的に共通しているのは、日数ではなく条件です
ではWHOや海外の学会は何と言っているのか。共通しているのは、次のような条件つきの表現です。
アジア太平洋地域の専門家による合意文書(2021年)は、「身体活動は、分娩様式や合併症の有無に応じて、医学的に安全と確認され次第、分娩後に段階的に再開できる」としています。骨盤底筋トレーニングについては、合併症のない経腟分娩および帝王切開の女性では産褥直後から開始できる、とも書かれています。
米国産科婦人科学会(ACOG)の見解(2020年)でも、妊娠前に運動習慣があった女性は妊娠中および産後もそれを継続できる、とされています。
日数ではなく「医学的に安全と確認され次第」。そして「分娩様式と合併症に応じて」。経腟分娩と帝王切開では違いますし、同じ帝王切開でも経過が違います。一律の週数を出せないのは、そのためです。
1か月健診は「許可証」ではなく、相談の機会です
「1か月健診で問題がなければ運動を始めてよい」という説明はよく見かけます。ただ、産婦健康診査事業の公的な目的にこの判定は含まれていません。
産婦健康診査事業(平成29年度創設)は、産後うつの予防や新生児への虐待予防を目的としています。公費助成は健診2回分で、実施時期は産後2週間、産後1か月など。健診の内容は、健康状態・育児環境の把握、体重・血圧測定、尿検査、精神状況のアセスメントの4項目です。
運動再開の可否は、この4項目に入っていません。
だからこそ、正確な使い方はこうです。1か月健診は、公的に用意された数少ない相談の機会である。その場で「そろそろ体を動かしたいのですが」と医師や助産師に聞く。これが、いちばん確実で、いちばん早い。
何から始めるか。いちばん根拠が明確なのは「歩くこと」です
WHOの身体活動・座位行動ガイドライン(2020年)は、妊婦および産後の女性に対して、一週間に150分以上の中強度有酸素性身体活動を推奨しています(強い推奨、エビデンスの確実性は中)。有酸素運動と筋力強化運動を組み合わせること、穏やかなストレッチングも有益な場合があることも挙げられています。
米国の身体活動ガイドライン(2018年)も同じく150分以上を示し、産後期間(分娩後1年間)の身体活動は心肺持久力を改善し、産後うつ症状を減らし、カロリー制限と組み合わせると妊娠前体重への復帰を助ける、としています。
150分は、1日あたり20分強です。ベビーカーでの散歩が入る数字です。
骨盤底筋トレーニングについては、正確に書きます
WHOは、尿失禁のリスクを減らすため骨盤底筋トレーニングを毎日行ってもよい、としています。
ただし、効果の根拠には強弱があります。コクランレビュー(2020年)によると、妊娠中に開始した骨盤底筋トレーニングは、産後3〜6か月超の尿失禁リスクを29%下げていました(リスク比0.71、確実性は高い)。一方、分娩後に開始した場合のリスク比は0.88で、信頼区間が1をまたいでおり、効果は不確実とされています。すでに尿漏れがある方への治療としても、差があるという確実な証拠は得られていません。
「やっても無駄」という意味ではありません。害はなく、WHOも推奨しています。ただ「産後から始めれば必ず治る」と言い切れる段階ではない、というのが現在地です。
お腹の「離れ」について、正確なところ
腹直筋離開という言葉が、産後の話ではよく出てきます。実際の数字を見ておきます。
初産婦300人を追跡した研究(2016年)では、腹直筋離開がある人の割合は、妊娠21週で33.1%、産後6週で60.0%、産後6か月で45.4%、産後12か月で32.6%でした。判定は触診で指幅2本以上です。
産後6週の時点では6割。それが1年かけて3割まで下がります。多くの方で、時間とともに減っていく現象だということです。同じ研究では、12か月時点で腹直筋離開がある人とない人のあいだに、腰や骨盤の痛みの有意差はありませんでした。
では運動で閉じられるのか。ランダム化比較試験7件・381人を統合した系統的レビュー(2021年)では、腹横筋のトレーニングによる離開幅の減少は0.63cmでしたが、エビデンスの質は「非常に低い」と評価されています。著者らは「産後の腹直筋離開の治療として特定の運動プログラムを推奨するだけの科学的根拠は、現時点では非常に質が低い」と結論しています。
ひとつ、よく流布している話を訂正しておきます。「クランチやシットアップは腹直筋離開を悪化させる」という説明です。70人を対象に12週間のカールアップ運動を行ったランダム化比較試験(2023年)では、離開幅は両群でほとんど変わらず、悪化した参加者はいませんでした。
正確な表現は、「悪化させる」ではなく「離開を閉じる効果が確認されていない」です。怖がる必要はありませんが、期待もしすぎないほうがよい、という位置づけになります。
授乳中の体重について
日本人の食事摂取基準(2025年版)では、授乳婦の付加量はエネルギーが1日あたり+350kcal、たんぱく質が推奨量で+20gとされています。授乳中は、平常時より必要量が上がります。
産後の減量については、コクランレビュー(2013年)が方法別に比較しています。運動のみでは有意差なし。食事のみで1.70kgの減量。食事と運動の組み合わせで1.93kgの減量でした。
そして重要なのはこの一文です。組み合わせは母体の心肺持久力を改善し除脂肪量を保持する一方、食事のみでは除脂肪量が減少する。授乳中であっても、食事だけで落とす方法は筋肉を削ります。
なお授乳への影響については、同レビューは「介入は授乳の成績に悪影響を及ぼさないと思われた」としつつ、「確信するには十分なエビデンスがなかった」とも書いています。断定できる段階ではありません。
運動より先に、受診すべきサインがあります
ここはトレーナーが判断してはいけない領域です。米国CDCが、妊娠中から分娩後1年までの女性に向けて「緊急の警告サイン」を公表しています。主なものを挙げます。
1時間に1枚以上のパッドを完全に濡らすような出血、または大きな血の塊が出る。37.8℃以上の発熱。鋭い、刺すような強い腹痛。治まらない、または悪化する頭痛。めまいや失神。視覚の変化。顔や手の極度のむくみ。突然または徐々に進む息切れ。胸痛や動悸。8時間以上飲めない、24時間以上食べられないほどの嘔気・嘔吐。脚や腕の腫れと痛み。睡眠で回復しない突然の激しい疲労感。そして、自分や赤ちゃんを傷つけたいという考え。
当てはまるものがあれば、運動の前に受診してください。
参考:日吉のCLEAN.の場合
比較の材料になるよう、当ジムがどうしているかも書いておきます。
日吉駅 西口から徒歩3分、女性専用・完全個室のパーソナルジムです。個室なので、他の会員様と顔を合わせることはありません。ウェア・シューズ・タオル・水は無料でお貸しするので、手ぶらで通えます。
産後の方については、まず1か月健診などで医師に運動再開を確認いただいたかをうかがいます。確認が取れていない場合は、その相談を先にお願いしています。上に書いたCDCの警告サインに当てはまる方も同様です。歯科医師・理学療法士・鍼灸師の先生方と提携しており、必要に応じてご紹介しています。
始める場合、最初に置くのは歩数と、負荷の軽い全身のトレーニングです。腹直筋離開の「幅を閉じる」ことを目的にしたプログラムは組みません。根拠の質が、まだそこまで来ていないからです。
授乳中の方の食事は、減らす設計にしません。付加量の分を踏まえたうえで、たんぱく質を確保する方向で組みます。月額プランには毎日のLINE食事指導と、10日ごとのフィードバックが含まれます。
料金は月4回コースが42,000円(税込46,200円)、月8回コースが72,000円(税込79,200円)。24回分の回数券は211,200円(税込232,320円・有効期限180日)で、こちらに毎日のLINE食事指導は含まれません。入会金は30,000円(税込33,000円)で、これ以外の追加料金はありません。
産後の体づくりの進め方は、産後の体づくりを日吉でのページにまとめています。
まとめ
「産後◯週から」という一律の基準は、日本にも海外にもありません。共通しているのは「医学的に安全と確認され次第、分娩様式と合併症に応じて段階的に」という条件です。
1か月健診は運動の許可証ではありませんが、公的に用意された相談の機会です。その場で聞くのがいちばん早い方法です。
いちばん根拠が明確な出発点は、一週間に150分の中強度有酸素運動、つまり歩くことです。骨盤底筋トレーニングは毎日行ってよいとされていますが、産後開始の効果はまだ不確実です。腹直筋離開は産後6週で6割、1年後には3割まで自然に下がります。特定の運動で閉じるという根拠は、まだ質が低い段階です。
授乳中は+350kcalの付加が必要で、食事だけで落とすと除脂肪量が減ります。
どこで取り組まれるにしても、急がずに始められることを願っています。
日吉に通うのが難しい方は、横浜のオンラインパーソナルトレーニング・オンライン食事指導もご検討ください。
出典
日本臨床スポーツ医学会「妊婦スポーツの安全管理基準」2019/日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン 産科編2020」/厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」/WHO Guidelines on Physical Activity and Sedentary Behaviour, 2020/Lee R ほか, BMJ Open Sport & Exercise Medicine, 2021/ACOG Committee Opinion No. 804, Obstetrics & Gynecology, 2020/厚生労働省 産婦健康診査事業/U.S. Department of Health and Human Services, Physical Activity Guidelines for Americans 2nd edition, 2018/Woodley SJ ほか, Cochrane Database of Systematic Reviews, 2020/Sperstad JB ほか, British Journal of Sports Medicine, 2016/Gluppe S ほか, Brazilian Journal of Physical Therapy, 2021/Gluppe S ほか, Journal of Physiotherapy, 2023/厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」/Amorim Adegboye AR, Linne YM, Cochrane Database of Systematic Reviews, 2013/U.S. CDC, Urgent Maternal Warning Signs(HEAR HER)
よくある質問
Q. 産後いつから運動を始めていいですか?
A. 出産の経過や回復には個人差があるため、まず医師の許可を確認してください。そのうえで、負荷をかける前に呼吸と骨盤まわりを整えるところから始めます。
Q. 産後の体型はいつまでに戻せますか?
A. 期限を決めて追い込むより、戻せる状態を作るほうが結果的に早く済みます。授乳中はエネルギーの必要量も変わるため、極端な食事制限は行いません。
Q. 子どもを連れて行けますか?
A. 完全予約制のため、ご来店前にご相談ください。