ダイエットの停滞期はなぜ来るのか。代謝適応と記録のずれ
「2か月目から、ぴたっと止まったんです」
日吉の体験トレーニングで、もっとも多くうかがう言葉のひとつです。最初のひと月は面白いように数字が動いたのに、ある日を境に体重計が同じ数字を返してくる。多くの方が「代謝が壊れたのでは」と考えはじめます。この記事では、その「止まった」の中身を、研究で確認できた数字だけを使って分解していきます。代謝は本当に落ちるのか、落ちるならどれくらいか、落ちていないのに止まって見えるのはなぜか、という順番です。
先に立場を書きます。停滞期は、すべての方に必ず訪れる通過儀礼ではありません。「止まった」と感じられている期間の多くは、代謝の低下よりも、記録と実際の摂取量のずれ、体内の水分量、食欲の高まりによる少しずつの摂取増加で説明がつきます。これは「あなたのせいだ」という話ではありません。記録がずれるのは記憶と計量の限界であり、食欲が強くなるのはホルモンが正常に働いている証拠です。
まず疑うのは水分とグリコーゲンです
減量開始から1週間ほどで落ちる分には、脂肪ではないものがかなり含まれます。Kreitzmanらが1992年にThe American Journal of Clinical Nutritionで報告したとおり、グリコーゲンは肝臓・筋肉・脂肪細胞に水を3〜4倍ともなった形で蓄えられています。糖質を減らせばグリコーゲンが減り、結びついていた水も出ていきます。序盤の数字がよく動くのはそのためです。
問題は、この関係が逆向きにも働くことです。糖質を多めに食べた日、塩分の多い外食が続いた日、トレーニングを増やした日、そして月経前。条件が重なると、脂肪が減っていても数字は横ばいや増加になります。著者らは、この水を含んだグリコーゲンの出入りが減量の見かけをゆがめると指摘しています。
- 体重は1日単位ではなく、7日間の平均どうしで比べる
- 朝起きてトイレを済ませた直後、同じ条件ではかる
- 2週間動かなければ「停滞」、1週間なら「まだ揺れの範囲」
代謝適応は実在します。ただし大きさは研究で割れています
ここは正直に書きます。減量後に安静時代謝が「体格から予測される値より低くなる」現象、いわゆる代謝適応については、報告されている大きさが研究によってかなり違います。両方お見せします。
大きく出た研究
有名なのは、Fothergillらが2016年にObesityで発表した、アメリカのテレビ減量番組の参加者を6年追った研究です。14名の体重は開始時148.9kg、30週で90.6kg、6年後で131.6kg。安静時代謝は2,607kcal/日、1,996kcal/日、1,903kcal/日と推移しました。予測値とのずれ、つまり代謝適応は30週でマイナス275kcal/日、6年後でマイナス499kcal/日。体重をかなり戻したあとも、消えるどころか大きくなっていました。
この数字から逆算すると、6年間の安静時代謝の低下704kcal/日のうち、体格の変化で説明できるのは約205kcal/日。残りの約499kcal/日、つまり低下の7割ほどは、体重が減ったことだけでは説明できなかった計算になります。
小さく出た研究
一方、Martinsらが2020年にThe American Journal of Clinical Nutritionで報告した研究では、171名の女性を対象に、代謝適応の大きさはおよそ50〜60kcal/日、安静時代謝の3〜4%程度にとどまりました。しかも代謝適応の大きさは、1年後・2年後の体重の戻り方と相関していませんでした。
この差は無視できません。Fothergillらの対象は30週で体重の4割近くを落とした極端な集団です。一般的なペースで減量されている方は、Martinsらの50〜60kcal/日に近いと考えるほうが自然でしょう。50kcal/日が数か月の完全な停滞を生むとは考えにくい、というのが数字から言えることです。
食事記録は、必ずずれます
ここが一番大きく、一番言いにくい論点です。二重標識水法という、実際のエネルギー消費量を精密に測る手法を基準に自己申告の食事量を検証した研究は数多くあります。HillとDaviesが2001年にBritish Journal of Nutritionでまとめたレビューでは、成人でおよそ11〜30%、肥満のある方では19〜59%の過小申告が報告されています。
1,600kcalで記録しているつもりが実際は2,000kcalだった、という規模のずれが普通に起こりうるということです。嘘をついているという話ではありません。調味料、飲み物、味見、もらったひと口、外食のグラム数の見積もり。小さな見落としが積み上がります。Guoらが2018年に同誌で報告したモデル検証でも、摂取量の不確かさが個人ごとの結果のばらつきのおよそ半分を説明していました。
比べてみてください。代謝適応が50〜60kcal/日、記録のずれは数百kcal/日。停滞したときにまずすることは、食事を減らすことではなく3日間だけ、いつもより細かく記録し直すことです。
食欲は1年たっても戻りません
記録がずれる背景には、生理的な理由もあります。Sumithranらが2011年にThe New England Journal of Medicineで報告した研究では、50名が10週間で平均13.5kg減量したあと62週目まで追跡されました。その時点で、食欲を抑えるレプチンは開始前より低いまま、食欲を高めるグレリンは高いまま、空腹感も強いまま。著者らは、これらは減量前の水準に戻らないと述べています。
1年たっても食欲が戻らない。この状態で最初のひと月と同じ厳密さを保つのは、意志の問題ではなく設計の問題です。Hallが2023年にbioRxivで公開したモデル研究は、体重が1kg減るごとに食欲側から押し戻される力を82〜83kcal/日、代謝適応の寄与を25kcal/日と見積もっています。主役は代謝ではなく食欲です。同じ研究では、通常のカロリー制限による体重はおよそ12か月で頭打ちになると示されています。
活動量は増えても、消費は減ります
見落とされやすいのがNEAT、運動以外の日常活動による消費です。von LoeffelholzとBirkenfeldのレビュー(Endotext, 2022)では、食事制限中の女性でNEATが150kcal/日、ベースラインの27%減ったという報告が紹介されています。
Bonomiらが2013年にPLOS ONEで報告した研究も示唆的です。66名が12週間で平均14kg(体重の13%)減量した際、活動量そのものは9%増え、座位時間は1日26分減り、歩行は11分増えていました。それでも活動によるエネルギー消費は約143kcal/日減っていました。体が軽くなった分、同じ距離を歩いても消費が少ないからです。
体重が減った分で、どこまで説明できるか
Leibelらが1995年にThe New England Journal of Medicineで報告した研究では、41名の体重を10%減らして維持させたところ、総エネルギー消費量は除脂肪量1kgあたり1日6kcalほど予測より低くなりました。除脂肪量50kgの方なら1日300kcalです。ただしこれは管理された環境での急性期の数字です。減量後に消費が下がる理由の大半は「体が小さくなったから」で説明でき、それを超える分は一般的な減量では数十kcal/日規模、というのが現時点の整理です。
ダイエットブレイクとリフィードのRCTはあります
「チートデイ」という言葉そのものを検証した研究は見つけられませんでした。ただし計画的に摂取量を戻す期間を挟むやり方には、ランダム化比較試験があります。
Byrneらが2018年にInternational Journal of Obesityで報告したMATADOR試験では、肥満のある男性が16週間続けて制限する群と、2週間の制限と2週間の維持を交互に繰り返す群に分けられました。完遂した36名では、体重減少が交互群14.1kgに対し連続群9.2kg、脂肪量は12.3kgと8.0kgでした。体組成で調整した安静時代謝の低下も交互群のほうが小さくなっています。
Campbellらが2020年にJournal of Functional Morphology and Kinesiologyで報告した試験では、筋力トレーニングをしている27名が7週間、「5日制限+2日維持」の群と毎日25%制限の群に分かれました。脂肪量の減少はほぼ同等(2.8kgと2.3kg)でしたが、除脂肪量の減少と安静時代謝の低下はリフィード群のほうが小さく出ています。ただし差が出たのは一部の指標のみだとする再解析の異議が同誌に掲載されており、断定できる段階ではありません。
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よくある質問
停滞期は必ず来るのですか
必ずではありません。モデル研究では通常のカロリー制限で体重が頭打ちになるのはおよそ12か月後と示されており、2か月目の停滞はそれよりかなり早い時期です。まず7日間平均での比較と、3日間の記録の取り直しをおすすめします。
代謝が落ちて痩せなくなったのでしょうか
落ちる方はいますが、大きさは研究で割れています。171名の追跡では約50〜60kcal/日、テレビ番組参加者の6年追跡という極端な例で499kcal/日でした。食事記録のずれは11〜59%と報告されており、そちらのほうが大きいことが多いです。
チートデイやリフィードは停滞期に効きますか
検証された試験はあります。2週間ごとに維持期間を挟んだ36名の試験では減量が14.1kgと9.2kgで、挟んだ群のほうが多く減りました。ただし対象は男性で規模も小さく、女性や短期の停滞にそのまま当てはめるのは慎重にお願いします。
参考:日吉のCLEAN.の場合
CLEAN.は日吉駅西口から徒歩3分、女性専用・完全個室のパーソナルジムです。男性は法人契約と、既存会員様からのご紹介のみとさせていただいています。ウェア・シューズ・タオル・水はすべて無料で貸し出していますので、手ぶらでお越しいただけます。
停滞したときに最初に確認すべきなのは代謝ではなく記録です。月額プランには毎日のLINE食事指導と、10日ごとのフィードバックが含まれています。毎日やりとりしていると、記録のずれが起きやすい場所、たとえば調味料や飲み物、外食の見積もりに、その日のうちに気づけます。10日ごとのフィードバックは、1日単位の揺れではなく長めの区間で傾向を見るための仕組みです。
料金は月4回コースが42,000円(税込46,200円)、月8回コースが72,000円(税込79,200円)、24回分の回数券が211,200円(税込232,320円・有効期限180日)です。回数券にLINEの食事指導は含まれません。入会金は30,000円(税込33,000円)で、これ以外の追加料金はありません。通い方の違いは3つのプランの違いと料金・プランのページにまとめています。
食事指導が含まれるかどうかは、この記事の論点とそのまま重なります。記録のずれが数百kcal/日になりうる一方で、代謝適応は50〜60kcal/日規模。どちらに手を入れるべきかは、数字が示しているとおりです。
まとめ
停滞期は必ず来るものではありません。モデル研究が示す頭打ちの時期はおよそ12か月、別の検証では体重が定常に近づくまでの時定数が340〜414日と見積もられています。開始2か月での「ぴたっと止まった」は、多くの場合それより前の出来事です。
その理由の筆頭は、水分とグリコーゲンの揺れ(水を3〜4倍ともなう)と、食事記録のずれ(成人で11〜30%、肥満のある方で19〜59%)です。どちらも数百kcal/日の規模になりえます。対して代謝適応は171名の追跡で50〜60kcal/日でした。
押し戻してくる力の主役も、代謝ではなく食欲です。体重1kgあたり食欲側からの押し戻しが82〜83kcal/日、代謝適応の寄与が25kcal/日。50名の追跡では減量から1年たってもレプチンは低いまま、グレリンと空腹感は高いままでした。
ですから、止まったときにすることは「もっと減らす」ではありません。7日間平均で比べ直すこと、3日間だけ記録を細かく取り直すこと、必要なら計画的に摂取量を戻す期間を挟むこと。この順番です。意志が弱かったのではなく、体が正常に反応しているだけです。
日吉まで通うのが難しい方、遠方の方にはオンラインでのご提供もあります。横浜のオンラインパーソナルトレーニング・オンライン食事指導(CLEAN.Online)では、画面越しのトレーニングと食事のやりとりを組み合わせて、記録のずれを一緒に埋めていきます。
- CLEAN.
出典
Fothergill E ほか, Obesity, 2016/Martins C ほか, The American Journal of Clinical Nutrition, 2020/Sumithran P ほか, The New England Journal of Medicine, 2011/Leibel RL ほか, The New England Journal of Medicine, 1995/Hill RJ, Davies PSW, British Journal of Nutrition, 2001/Bonomi AG ほか, PLOS ONE, 2013/Guo J, Brager DC, Hall KD, The American Journal of Clinical Nutrition, 2018/Hall KD, bioRxiv(プレプリント), 2023/Kreitzman SN ほか, The American Journal of Clinical Nutrition, 1992/Byrne NM ほか, International Journal of Obesity, 2018/Campbell BI ほか, Journal of Functional Morphology and Kinesiology, 2020/von Loeffelholz C, Birkenfeld AL, Endotext, 2022